文系の私が、MBAで学んだ統計について、M-1グランプリ2021の審査点を題材に分析してみるシリーズの第2回です。
今日の仮説は、「審査員を務めたオール巨人と松本人志は、はたしてお笑いの基準をめぐって仲が悪いか」。
今回の決勝ラウンドの1本目。結果的に1位でファイナルに進んだオズワルドの審査を終えて、審査員の上沼恵美子さんがこんなことを言った。
上沼:「ホントに標準語はいいなって思いました。やっぱり漫才いうたら関西弁って思って関西の方が面白いって思うんですが、全然! 標準語、好きになりました」「松本さんと巨人さん、仲悪いんですか?」
この発言だけを聞いても、なんのことか意味がわからない
調べると、ことの発端は、前回の2020年大会にさかのぼる。
当時のことをオズワルドの背の高い方、畠中さんが、日刊スポーツのインタビューに、こう振り返っている。
オズワルド畠中:前回決勝は松本(人志)さんと(オール)巨人師匠に正反対のことを言われた。松本さんは「もう少し静かな漫才が見たかった」、巨人師匠は「最初から大きい声で突っ込んだ方が良かったのでは」と。
お笑い界の重鎮2人によるオズワルドへの正反対の「お笑い指南」は、界隈でも話題になった。そして今年、上沼さんが「松本さんと巨人さん、仲悪いんですか?」と1年越しに「いじりの質問」をしたというわけだ。
上沼さんのフリを受けて、巨人師匠はオズワルドへの審査コメントでこう答えた。
巨人「(オズワルドの1本目の出来は)直すトコないんちゃうの?いうぐらい。松本君と僕は仲良いですよ。見方は違うかっても点数はよく似た点数。松本君の言う事も僕の言う事も聞いてくれて両方とも取り入れてると思うんですよ。静かに入って声も張る所もあって。聞く耳を持ってるね。君ら二人は。ホントに思います」
番組上も明かされているが、いまも劇場に立つオール巨人は、1回戦から出場コンビのネタを詳細にチェックして、決勝の審査にのぞんでいる。そのうえで、当日の出来・不出来を判断して点を付けているのだ。
一方の松本人志は、事前に出場コンビのネタを極力、観ないまま審査席に座る。先入観をもたず、できる限り目の前の面白さで判断するという姿勢だ。これが巨人のいう「(松本人志と自分とは)見方は違う」ということだ。
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オール巨人と松本人志の審査の眼は本当に違うのか?
統計学を学んだばかりの私は、相関(そうかん)分析なるもので、数字をみることにした。今回も私より詳しい同級生Sさんの監修を得た。
相関分析とは、二つの要素の関連性(相関性)をみる分析手法である
AとBを比較して引き合いの強さを分析するイメージだ。例えば、入社試験の成績(A)が、入社3年後の営業成績(B)に影響するのか。ある店で、ピザ(A)とビール(B)の売り上げに関連性があるか、といったことを調べる。
ここでは、M-1グランプリ2021で、オール巨人の採点(A)と松本人志の採点(B)が、どれほど関連性があるか、である。前回記事の分散や標準偏差と同じで、自ら手計算する必要はない。エクセルを使えば、ものの数秒で出せる。
やり方はまず、採点結果の一覧表を用意する。「データ分析」→「相関」を選ぶ。クリーム色に色がけした部分を選択してOKボタンを押すだけだ。
こんな一覧表が新たに作られる。
相関の強さを表す数字=相関係数(r=-1~1)をみて、なんじゃこれ?である。
横軸と縦軸をクロスさせるようにみる。「巨人」(B1)と「巨人」(B2)の相関係数は? 同一人物なので、分析するまでもなく、関連性は最大の1である。
この数字はパーセントに置き換えてよい。巨人と巨人の関連性は「1」=100%である。巨人Aが高得点をつければ、コピーの巨人Bも同じく高得点を100%つけた。同じく富澤(C3)と富澤(A3)も1=100%。そうした相関係数として「1」が表に並ぶ。
ここからが本題だ。
「巨人」(B列)を中心に、色がけしたサンド富澤(B3)、ナイツ・塙(B4)、志らく(B5)、中川家・礼二(B6)、松本人志(B7)、上沼恵美子(B8)との相関係数を縦に見てみる。
最も高い相関順からみれば、塙(0.836=83.6%)、松本(0.783=78.3%)である。
これは巨人の採点について、ナイツ・塙は86.3%、松本人志は78.3%の相関関係がある。元データは審査点なので、3人はお笑いの思考や好みが近かったことを表す。
「コンビAの審査で巨人が高得点をつけたら、松本も高得点をつける」という因果関係まではいえない。ただ少なくとも、今回の10組の審査で、この3人の好みが、ほかの4人の審査員と比べて似通っていると言える。
巨人と松本は、審査員席に座るまでの準備が違うが、結果的に似たような採点をしているということが、定量的にも証明された。(データの少なさによる精度は割愛)。
一方、巨人と志らくとの相関係数は、わずか0.069=6.9%と、関連性が弱い。また、巨人は上沼恵美子とも相関が0.160=16%にすぎず、塙や松本人志との相関の強さとは対照的だ。
ちなみに、相関係数rは-1~1で「2」の幅がある。プラスだと正の相関。Aが高ければ、一方のBも高い。巨人が高得点をつけていたら、塙や松本人志も高得点をつけている、という関係性は、「正の相関が強い」といえる。
一方で、マイナスの場合は「負の相関」。片方Aが高ければ、片方Bは低かった。
この負の相関を一覧から探してみよう。
E8をみてみると、志らくと上沼恵美子の相関係数r=-0.452=-45.2%で負の相関だ。
定性的に説明すれば、志らくが高得点をつければ、上沼はおよそ半数(45.2%)の確率で低く評価した。逆に上沼が高く採点したとき、志らくは、およそ半数の確率で厳し目の採点をした、という相関関係にある。
志らくは、サンド・富澤とも負の相関関係にあるが、上沼恵美子と比べた時ほど強くはない。
元の仮説に改めて答える。
巨人と松本の審査眼は「相性が悪い」のではなく、むしろかなり似ている(正の相関78.3%)。おまけにナイツ塙も入れて3人は似た思考である。
審査眼で相性が悪いのは、むしろ立川志らくと上沼恵美子だ(負の相関で-45.2%)。
この調子で表を眺めると、ほかにも書けることは多い。
例えば、今回はサンド・富澤や中川家・礼二に触れなかったが、巨人・塙・松本とそれなりに高い相関関係にある。こうしたグルーピングは、次回以降で別の手法を使って触れたい。
今後は別の定量分析を使って例えば、
巨人と塙と松本と、3人とも似通った判断をするなら、このうち誰か1人だけで十分ではないか?
自分がつけた採点結果をもとに、どのプロ審査員と相関が高いか、低いかをみてみよう。
なにかと物議を醸す審査員・上沼恵美子さんは、審査員団のなかで、どういう役割を果たしているのか?
オール巨人と上沼恵美子が、今年限りで審査員を降りると報じられているが、もし2人が抜けたら、次回大会はどんな影響がでそう?
こんな仮説を検証してみたい。
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本文の大半は芸人さんの名前を敬称略で表記した。
1本目「分散と標準偏差」をより丁寧にわかりやすく読めるよう書き直した。
お疲れ様です。
前編に続き、本当に面白いです!!!! こういう相関がでてくると、傾向と対策を超えてAI漫才になりそうですね。素晴らしい文化継承の意味でも、のがさんが提唱されるように審査員の固定化を避けるべきですね。そして、あんなに苦労したビジネスアナリティクス、このレター読んでから受けたかったです。